小江戸川越バーチャル散策
~4つのストーリーに隠された謎。きっとあなたは導かれる~
ナイスミディ編
「へぇ、しっかりしてるねぇ、麻由ちゃん。ネットで調べてくれたんだ。」
「そう、明日川越に行くって言ったらサクっとね。あかりやっていう甘味処のホームページなんだけど、この散策マップわりと使えそうなのよ。」
「そんなこともできるようになったのねぇ。なんか抱っこした記憶しかないわ。あら、そのバッグいいじゃない!」
「ちょっと派手かなぁって思ったんだけど、麻由が卒業旅行で買ってきてくれて・・・」
「そんなことない、似合ってるよ。ライトグリーン選ぶなんてセンスいいね。」
学生時代を共に過ごした3人が久しぶりに集まり談笑しているのは、西武新宿―本川越間を約45分で結ぶ特急レッドアローの車内である。ゆったりとした全席指定の快適な列車で川越散策に行こうと企画を立てたのは麻理子だ。
列車は定刻通りに本川越駅へ着いた。爽やかな風を心地良く感じ、一路目指すのは、手入れされた庭園の美しい「中院」である。
「評判通りの美しさねぇ。」
「この静けさ、日々の喧噪を忘れさせてくれるわ。」
「ほんとねぇ…」
しだれ桜が有名な中院であるが、新緑や紅葉に彩られる季節もその落ち着いた佇まいで人々を魅了している。おしゃべりを中断して、せわしない日常では感じることができない、ゆったりとした時間の流れに身を置いてみる。
「もう一つ有名なお寺があって、そこも緑がきれいらしいわ。」
ふたたび昔話に花を咲かせながら、マップを頼りに歩くと、ほどなく「喜多院」に到着した。
思わず深呼吸したくなる鬱蒼とした木々に囲まれた境内は、国指定の重要文化財がいくつもあり、日本三大羅漢のひとつ五百羅漢もある。
「五百羅漢って必ず自分の知っている誰かに似てるらしいよ。」
「ねぇ、この羅漢さま、みゆきのダンナさんに似てない?」
「ちょっとやめてくれる、思い出させるの、ここまで来て。」
「なにそれ~あははは。」
石段の上に建つ立派な本堂でお参りをしていると、となりで浴衣を着た若いカップルがおみくじを引いている。どうやら吉だったようだ。少しはにかみながら、「なんて書いてあるの?」と、赤い帯が初々しい彼女は背の高い彼の肩越しに聞いている。
「~物事の真理は裏側にあり~だって。なんのことだろうな。」
仲むつまじいカップルに在りし日の自分たちの姿を重ねながら、3人も早速おみくじを引いた。
「あ、大吉だ!失せ物、出てくるって。こないだ無くしたへそくり出てくるかなぁ。」
「へそくり無くしてちゃ、どうしようもないでしょ。典子らしいけど。」
「えー、私、凶なんだけど。万事整わないって。落ち込むわぁ。」 大騒ぎである。
「落ち込んだらお腹空いてきた。そろそろお昼にしようよ。蔵づくりの街並みに行ってみようか?」
「そうだね。川越はうなぎが有名らしいよ。うな重とかどうかな。」
「いいねぇ。」
「歩くグルメマップ」と揶揄されながら独身時代はあちらこちらと食べ歩いた3人。真剣にうなぎを求めてスマホで検索する。ちょうどご主人たちもワンコインのお昼を求め、頭を悩ましている頃だろう。
「うなぎといえばさぁ、高校のお弁当の時間に典子が『今日はうなぎだってお母さんが言ってたぁ』って言ってさ。『すごーい!』て皆で盛り上がってパカッとふたを開けたら、しゃけの切り身がドーンみたいな、あったじゃない。」
「あった、あった、大笑いしたわぁ」
思い出話は尽きない。和モダンの素敵なお店が多い一番街は重厚な蔵が連なり、歴史を物語っている。ところどころにある細い路地もしっとりしとした雰囲気があり、小江戸情緒を醸し出す。どこからともなく鐘の音が時を告げる。
お腹を満たし、蔵の街も満喫した3人は甘味処あかりやへ向かった。
「ダンナにお土産買ってこうっと。あんみつとか好きなんだよねぇ、あのひと。」
「なんだかんだと、ダンナさん思いなんじゃない、みゆきったら」
「そういうんじゃないけど。前に日経の「何でもランキング」にここの店のあんみつが載ってたからさ。」と照れ隠しのみゆき。
「私も娘に白玉あんみつでも買おうかな。」
「そうだね、自分たちだけ遊んじゃねぇ。」
少し主婦の顔を取り戻した3人は家族へのおみやげを携えて駅へ足を向けたが、しばらく歩くと「ききざけ」の文字が目に飛び込んできた。川越市の観光施設「小江戸蔵里」である。
蔵を改装したこの施設には、おみやげ処、まかない処、ききざけ処がある。ムクムクと飲み歩いていた頃が思い出され、足は自然と「ききざけ処」へ。
「へぇ、ここ、昔は造り酒屋だったんだって。店内も趣あるわねぇ。」
「県内40種類の日本酒を試せるなんて目移りするわー。」
「ちょっとしたおつまみとかあるじゃない。川越って本当にいいところ。」
さきほどの主婦の顔はどこへやら、すっかり飲み友達の顔へと変わり、ああだこうだと利き酒に興じ始める3人。
女たちの口は常におしゃべりと美食に満たされているのだ。